にぼしめし

備忘録

それでお前は誰なんだ?:『シルバー事件』感想

※ネタバレを含みます。

 

 昨年の秋ごろ、HD版リリースに合わせて購入した「シルバー事件」をようやくクリアした。「ものすごく人を選ぶけれど、嵌る人はとことんのめり込むだろうな…」が第一の感想である。

 正直、やたら面倒なシステム、謎解きですらない謎解き、いちいちもっさりしている挙動、文脈がよくわからない言葉足らずのテキスト、と勧めるに躊躇する点は数多くあるが、シナリオ全体に漂う独特の寂寞感とアングラ感が心地よく、クリアした後の余韻がとても良い。「ウエハラカムイとは何者か?」という問いに終始し、一応解答らしきものは提示されるが、クリアして抱く感想は「それでお前は何者なんだ?」である。ずっと「自分」だと思っていた私(特に入力時に謎の勘違いから「me」というネームにしていた故に余計に)がどんどん自分の手を離れ、乖離し、浮遊し、どこか遠くへ行ってしまうのが奇妙だった。

 一番好きなシナリオは「パレード」だ。これはもう圧倒的で、このシナリオがあるがために他の欠点が全て掻き消えている。コダイスミオの名を見るだけで胸が詰まる。その愚かさゆえ愛してしまう。「パレード」中盤までは、なぜこのシナリオがやたらと評判がいいかが理解できなかった。ただの誘拐事件でしかなく、よくわからないまま終わる上に不気味だ…と思っていたところに、コダイスミオの名が出てきて文字通りひっくり返りそうになった。このゲームを進めていると毎度なぜか眠くなってしまうのだが、この時ばかりは一瞬で目が覚めた。そして涙をとめることはできなかった。過去を殺す・・・最後の会話がよかった。先ほど言葉足らずのテキストと批判したが、このシーンではそれが最良の形で活きていた。極限まで余分な要素がそぎ落とされ、シンプルで含みのある会話となっていた。「僕の全てがありました」からの背広の思い出はずるい。もともとコダイスミオというキャラクターを気に入っていたがために、この展開はショックで仕方なかった。あまりの喪失感に、「パレード」を終えてからしばらくプレイを休んだ。しかし、コダイスミオの存在ゆえに私はこのゲームのことを忘れないだろう。